2026年2月20日、連邦最高裁がトランプ政権の「全世界への一律関税」を違法と判断し、大統領が即座に別の法律(通商法122条)を使って「150日間・10%」の関税を強行するという異例の事態が起きました。
なぜ同じ「大統領が決めた関税」で合法と違法が分かれるのか、そしてニュースで懸念されている「返還リスク」とは何なのか。複雑な法的な背景を整理します。
1. 関税の権限は「議会」にある
まず大前提として、アメリカ合衆国憲法において「税金(関税)を決める権限」は議会にあります。大統領は、過去に議会が作った「特定の条件付きの法律(委任状)」の枠内でしか、関税をかけることができません。
① 合法とされている「既存の重い関税」
現在、中国や鉄鋼・アルミなどにかけられている関税は、以下の法律を根拠にしています。
- 通商法301条: 「相手国が不公正な貿易をしている場合」の制裁。
- 通商法232条: 「輸入品が国の安全保障を脅かす場合」の措置。
これらは、大統領が「不公正だ」「国防の危機だ」という条件(ルールの枠内)を満たす手続きを踏んでいるため、議会の承認を通さなくても合法と見なされ、現在も継続しています。
② 違法とされた「今回の全世界一律関税」
一方、トランプ大統領が新しく強行しようとした恒久的な一律関税は、IEEPA(国際緊急経済権限法)という法律を根拠にしていました。 大統領は「貿易赤字は国家の緊急事態だ」と主張しましたが、最高裁は「貿易赤字を理由に、議会を通さずに世界中の全品目に永遠に課税するのは、議会から与えられた権限(委任状)の乱用である」として、違法判決を下しました。
2. ニュースで報じられる「返還リスク」と波及効果
この違法判決により、米国政府には巨額の「税金返還リスク」が浮上しています。
- 違法関税の返還: 違法とされた措置によってすでに米国の輸入企業が支払ってしまった関税は、法的な根拠がない不当な徴収となるため、政府は国庫から全額を返還するよう訴訟を起こされるリスクを抱えました。
- 既存の関税への「波及リスク」: 既存の対中関税(301条)などが即座に無効になるわけではありません。しかし、最高裁が「大統領の権限拡大」に明確なノーを突きつけたことで、現在既存の関税に苦しんでいる企業が「対中関税の決め方も権限逸脱だったはずだ」と新たな訴訟を起こしやすくなる(過去の税金の返還を求める)という、法的なドミノ倒しの危険性が指摘されています。
3. 抜け道を使った「150日間・10%」の対抗措置
最高裁に本命の関税を止められたトランプ大統領は、判決当日に「1974年通商法122条」という別のカードを切りました。
これは「国際収支の赤字が深刻な場合、最大150日間、最大15%までの関税を大統領権限でかけてもよい」という厳格な期間限定の法律です。 大統領はこれを利用し、まずは合法的に「10%の関税」を即時発動させました。この150日間(約5ヶ月)を人質にとり、その間に議会に圧力をかけて本命の関税法案を通すか、各国から有利な貿易協定を引き出そうとする強硬な政治戦略です。
まとめ
今回の騒動は、「大統領の強権」と「議会の権限を守る司法」の激しい衝突です。 既存の関税は維持されつつも、大統領の権限には明確なブレーキがかかりました。今後の150日間に、米国議会や日本を含む関係国がどう動くかが世界経済の最大の焦点となります。
