3回目となる失敗を受け、和歌山県串本町でのロケット打ち上げに関する一連のプロジェクトについて、挑んだ企業の実態や資金調達の仕組み、立地の理由、そして失敗時の「人工衛星の補償」といった実務的な仕組みを整理します。
目次
1. 挑戦した企業「スペースワン」とは?
このプロジェクトを進めているのは、東京・港区に本社を置くスペースワン株式会社です。 「宇宙宅配便」というコンセプトを掲げ、小型の人工衛星を安く、高頻度で、お客様の希望するタイミングで宇宙(軌道上)へ届ける輸送サービスを目指し、2018年に設立された宇宙スタートアップ企業です。
2. 資金はどこから調達しているのか?
「ベンチャー企業」とはいえ、日本のモノづくりを代表する大企業などが共同で出資・設立したという強固な背景があります。
- 初期の主な出資企業(設立メンバー): キヤノン電子(電子機器・制御)、IHIエアロスペース(ロケット開発の老舗)、清水建設(発射場のインフラ建設)、日本政策投資銀行(DBJ/資金支援)の4社が中心となって立ち上げました。
- その後の資金調達と支援: オリックス、JR西日本イノベーションズ、ニッセイ・キャピタルなどの事業会社やベンチャーキャピタルからも出資を受けており、累計資金調達額は200億円を突破しています。さらに、文部科学省の民間ロケット支援事業などによる国からの補助金も獲得しており、官民双方から手厚い資金支援を受けています。
3. なぜ「和歌山県・串本町」が選ばれたのか?
東京の会社が本州最南端に、日本初となる民間専用のロケット発射場「スペースポート紀伊」を作った最大の理由は、「打ち上げ時の安全性と方角の自由度」です。
ロケットは地球の自転を利用したり、目的の軌道に乗せたりするために、主に「南」や「東」に向けて打ち上げます。串本町は南や東を向くとすぐ目の前が広大な太平洋です。今回のように万が一打ち上げに失敗して部品が落下したり、飛行中断措置が取られたりする際も、人口密集地や他国の領土・領海に落下するリスクが極めて低く、安全を確保しやすいという地理的な大メリットがありました。
4. 搭載していた衛星の補償はどうなるのか?
2026年3月5日の3号機打ち上げ時にも小型人工衛星が5基搭載されていましたが、飛行中断措置(爆発)によってこれらも失われました。このような場合の損害補償については、宇宙ビジネス特有のルールが存在します。
- ロケット会社は「衛星の弁償」をしないのが基本: 原則として、ロケットの打ち上げ契約では「失敗してもロケット会社(スペースワン)は搭載した衛星の損害を直接補償しない」という免責事項が組まれています。宇宙開発はそもそも失敗リスクが高く、ロケット会社がすべての弁償を背負うと事業自体が成立しなくなってしまうためです。
- 「宇宙保険(打上げ保険)」による自衛: 衛星の持ち主(顧客)は事前に「打上げ保険」と呼ばれる特殊な損害保険を掛けて自衛するのが一般的です。打ち上げに失敗した場合、保険会社から衛星の持ち主へ保険金が支払われ、その資金で代替機の開発などを行う仕組みです。
- ※第三者への被害は別の保険でカバー: もしロケットの破片が民家などに落ちて地上の人や物に被害を与えた場合(第三者損害)は、法律(宇宙活動法)に基づき、ロケットを打ち上げる企業側が事前に加入を義務付けられている「第三者賠償責任保険」によって補償される仕組みになっています。
